「お帰りなさい、真島さん」
心地よく響く声音の主が誰なのか。視認するまでもなく悟ったが、それでもやっぱり惹きつけられるがまま、目を向ける。エプロンの代わりにカーディガンを身に着けた美幸が、階段を上りきったすぐ先の所に立ち。笑顔を向けてくれていた。
彼女も銭湯帰り間もないのか、微かに湿った黒髪が艶めきを増して映る。いつもより低い位置で緩めに結われた髪の毛先が、主の闊歩に合わせて微細に揺らぐ。エプロンよりも締め付けの緩い胸元も、わずかではあるが弾んでいるのが見て取れた。それがまた堪らなく賢太の心根を掻き乱す。
(全身、いい匂いがするんだろうな)
視線が合っていなければ、今すぐにでも鼻を鳴らしたい。夢想に憑かれそうになるのを懸命に我慢する賢太の心情を知ってか知らずか。美幸はカーディガンの胸元を手で押さえ、ジーンズに包まれた腰を小さく揺すり、一歩ずつ着実に下り迫ってくる。
寒がっているといえばそれまで。しかし階段を下る間中、カーディガンの胸元から手を離さないのは、やはり不自然だ。笑顔と動きの硬さの、ちぐはぐ感。見るほどに危うさを感じて、彼女の挙動から、先程までと違った意味で目が離せなかった。
出典:~ときめきアパート性活 愛しの管理人さんと魅惑の隣人たち (リアルドリーム文庫) ~
著者: 空蝉
ひとつ屋根の下 恋色の陽だまり ボロアパートに独り暮らしをする浪人生・賢太は、一癖も二癖もある隣人たちと深い仲になる。「初めてのおっぱいの感触はどう? 柔らかい?」妖艶な美女・朱里に自信をつけさせてもらった賢太は思いを寄せる管理人の美幸とも心の距離を詰めていくが、なかなか一線を越えられずにいた。浪人生に春は来るのか!?日常に密着したエロス、リアルな舞台設定で送る官能小説レーベル!