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こんなエロチックなコスプレは、見たいと思ってもそう簡単に見られるものではない。着替えるなど、冗談ではなかった。

庵乃音人

保育園から帰り、すぐにご飯作るから待っててねと言い残していったん着替えに消えた志摩子は、台所に戻って来るなり貴史の不躾な視線を一身に浴び、いたたまれなさそうに顔を背けた。内股にした両足をモゾモゾさせる様がいやらしい。
志摩子は薄桃色の、楚々として愛くるしいエプロンを身につけていた。これからご飯を用意してくれるつもりでいるのだから、それ自体には何の問題もない。
問題なのは、エプロン以外何も身につけていないことだ。つまり──、
(これって早い話が……裸エプロン……?)
貴史は一気に興奮した。志摩子が帰ってくるまで、ずっと夏海の捨てぜりふが心に引っかかり、どういう意味だったのだろうと気になり続けていたのに、今ではそれが嘘だったように、心が猥褻な劣情一色に染まっていく。
『偉そうにしないでよ。女心も分からない鈍感男のくせに』
勝負に負けた夏海は悔しそうに叫んで、道場から飛び出した。
「どういう意味なんでしょう?」ときょとんとして祈里に聞いたが、祈里も「さ、さあ……」などと当惑し、疑問に答えてはくれなかった。
おそらく祈里にも、夏海が言わんとする意味が分からなかったのだろう。
そうなると、もう貴史にはお手上げだった。もしかしたら志摩子について、自分はまだ何か分かっていないことでもあるのだろうか。
「こういうの……貴史さん……嫌い?」
貴史の回想を遮るように、おそるおそる志摩子が聞いてきた。
「えっ……あ、いえ……」何と答えていいのか分からず、貴史は答えに窮する。
「男の人って……コスプレっていうの?そういうの、好きな人多いって聞いて……でも、私にできることっていったら……こんな格好ぐらいで……」
「志摩子さん……」
(な、何て可愛い人なんだろう……)
我知らず胸が熱くなった。昨夜の風呂場での奉仕といい、今のこの姿といい、この純情な保母は自分をもてなし、少しでも悦ばせるために、きっと必死でいろいろなことを勉強し、恥を忍んで一つ一つ実行しているのだろう。
(俺……どんどん志摩子さんに、惹かれていっている気が……)
「……色っぽすぎて、どきどきします」
「ほんと……?いやじゃない?着替えた方がいい?」
おどおどと聞かれ、貴史はかぶりを振った。こんなエロチックなコスプレは、見たいと思ってもそう簡単に見られるものではない。着替えるなど、冗談ではなかった。
「よかった。じゃあ、すぐにご飯にするね。冷やし中華でいい?」

出典:~魅惑の桃尻温泉郷 女子大生と恋の四角関係 (リアルドリーム文庫)

著者: 庵乃音人

「夏休みって何か予定ある?」密かに恋い慕う大学の先輩・祈里の誘いで訪れた山村。そこで青年は祈里の友人・志摩子の縁談を断るために偽りの婿候補として“お試し婚”をすることになる。祈里への恋心を抱えながらも縮まる志摩子との距離。さらに志摩子の妹も巻き込み、交錯する恋の行方は!?