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じょぼじょぼじょぼ。じょぼぼぼぼぼぼぼ……。よほど我慢していたのか、祈里は汲み取り便所の暗い穴のなかに、派手な音を立てて小便を飛び散らせ始める

庵乃音人

たった一つしかない個室のなかで秘めやかな衣ずれの音がする。
袴の紐を解いている音だ。袴を穿くのはけっこう手間な作業で、初心者は紐の巻き方にも苦労するが、祈里クラスになれば締めるのも解くのも手際よく、素早かった。
息を殺してなかに入り、ゆっくりと個室ボックスに近づく。
これから祈里は袴を脱ぎ、その下に穿いているショーツと一緒に、膝のあたりまでずらすはずだ。そして胴衣を腰の上までたくし上げ、もっとも恥ずかしい部分を剥き出しにして、あの汚い「ポットン便所」にがに股になって腰を落とすのだ。
(あぁ、先輩……)
想像しただけで痺れるような興奮を覚えた。
変態男と笑わば笑え。どんな汚名も甘んじて受けよう。貴史はもう、祈里への溢れんばかりの想いを持てあまし、どうしていいのか分からないほど浮き足立っていた。
衣ずれの音が一段落し、二つの雪駄がコンクリートの床で位置を直す音がする。
(先輩が……おしっこを始める……)
「んっ……あぁ……」やがて、扉一枚隔てた向こうから下品な放尿音が響いた。
じょぼじょぼじょぼ。じょぼぼぼぼぼぼぼ……。よほど我慢していたのか、祈里は汲み取り便所の暗い穴のなかに、派手な音を立てて小便を飛び散らせ始める。
真新しいアンモニアの匂いが、生温かな湿気とともに漂ってきた。
もう限界だった。扉を開けば、そこにはお尻を剥き出しにして便器にしゃがむ祈里がいるのだ。しかも和式便器の後部は扉の方を向いていた。
(先輩……ごめんなさい……!)
胸苦しさといけない高揚感で全身が痺れた。古色蒼然とした扉に手を伸ばす。

出典:~魅惑の桃尻温泉郷 女子大生と恋の四角関係 (リアルドリーム文庫)

著者: 庵乃音人

「夏休みって何か予定ある?」密かに恋い慕う大学の先輩・祈里の誘いで訪れた山村。そこで青年は祈里の友人・志摩子の縁談を断るために偽りの婿候補として“お試し婚”をすることになる。祈里への恋心を抱えながらも縮まる志摩子との距離。さらに志摩子の妹も巻き込み、交錯する恋の行方は!?